海牛目の現生全4種類と近年の絶滅種1種について解説するとともに、分類・系統・化石種についても生物学の博物館学芸員である筆者が解説します。
海牛目とは?
海牛目は哺乳類の一群で、別名をジュゴン目やカイギュウ目とも言います。進化の系統的には長鼻目(ゾウ目)に近縁なグループです。
水中生活に完全に適応しており、外部形態としてはクジラ目の動物に似通っています(前肢が鰭化・後肢が退化・尾部が鰭化など)、これは収斂進化の結果であり、海牛目とクジラ目はかなり遠い類縁関係です。
ゾウ目に近いことからもわかるように、海牛目は完全な草食性で、現生種は主に海草を主食としています。
※海草は維管束を持つ高等植物・種子植物で、海藻とは全く進化ステージが異なる植物です。
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海牛目の始祖となったテティス獣類
海牛目と長鼻目を含む分類グループにテティス獣類があり、そこには絶滅群である束柱目があります。
束柱目の多くは半水生であり、このグループの始祖から海牛目の始祖が分化したと考えられています。
以下に水中生活への適応度が進んでいたと考えられているテティス獣類の画像をご紹介します。
デスモスチルス科の一種
デスモスチルス科のなかでも、本種は後肢がかなり退化しており、水中生活の比重が高かったと推測されています。
パレオパラドキシア科の一種
こちらはデスモスチルス科に近縁な、同じく束柱目のパレオパラドキシア科の一種です。現生のカバのような半水生の生活を送っていたと考えられています。
パレオパラドキシア科の一種
こちらもパレオパラドキシア科の一種ですが、さらに水中生活に適応した種類です。
それでは、次の項目からは海牛目の現生種・絶滅種・化石種を順にご紹介していきます。
海牛目の系統樹
画像引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Sirenia
この図は、海牛目内の類縁関係を図式化した系統樹と呼ばれるものです。
系統樹を見ると、、まずはマナティー科が分化し、その後にジュゴンとステラーカイギュウが分化したことがわかります。
また、Prorastomidae科・Protosirenidae科・Halitheriinae科といった化石種が存在していたこともわかります。
ジュゴン科ジュゴン(現生種)
ジュゴン(学名:Dugong dugon)は、カイギュウ目ジュゴン科ジュゴン属に分類される海生哺乳類で、現生種としては本種の一科一属のみとなっています。
インド洋と太平洋の熱帯~亜熱帯海域の沿岸部に分布しており、アマモ科などの海草類を主食としています。
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ジュゴン科ステラーカイギュウ(絶滅種)
ステラーカイギュウは寒冷な環境に適応したジュゴン科の一種で、他の海牛目とは違いコンブなど海藻類を主食としていました。
ステラーカイギュウはユーラシア大陸北部から北アメリカ大陸北部にかけてのベーリング海に広く分布していました。
ステラーカイギュウ1741年に発見されましたが、発見からわずか27年後の1768年に人間に捕獲され尽くされ絶滅しました。
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マナティー科アマゾンマナティー(現生種)
学名:Trichechus inunguis
アマゾンマナティーは南米大陸の北部中央部に分布するマナティーの1種で、全ての海牛目のなかでも最小の種類です。
マナティー科アメリカマナティー(現生種)
学名:Trichechus manatus
アメリカマナティーは北米・中南米・南米のカリブ海に面した沿岸地域および河口域に分布しているマナティーの1種です。ジュゴンよりもやや大型です。
マナティー科アフリカマナティー(現生種)
学名:Trichechus senegalensis
アフリカマナティーはアフリカ大陸西海岸の沿岸部および河口域に生息しているおり、とマナティー科のみならず現生の海牛目(ジュゴン目)でも最大の種類です。
マナティー3種の分布
上図はマナティー3種の分布をあらわした図です。
アマゾンマナティー以外の2種は、淡水域だけでなく海水域でも生活しています。
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Prorastomidae科Prorastomus sirenoides(化石種)
Prorastomus sirenoidesは、約4000万年前(始新世)にジャマイカ周辺に生息していたもっとも古いタイプの海牛目の一種で、水中生活にかなり適応はしていたものの、まだ前肢と後肢があり、尾も鰭化はしていませんでした。
Protosirenidae科の一種(化石種)
Protosirenidae科はProrastomidae科よりもさらに水中適応が進んだ科で、後肢を持つ最後の海牛目です。
ジュゴン科ドゥシシーレン
ドゥシシーレン(Dusisiren)は新第三紀に北太平洋に生息していた化石種で、海草類から海藻類へと食性を変え、低水温帯に適応を始めた初期の海牛目であると考えられています。
ジュゴンからドゥシシーレンが分化し、さらにドゥシシーレンからステラーカイギュウが分化していった進化の道のりの中間的な種類であると言えるでしょう。
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