ミジンコ類は「らんちゅう」などの高級金魚や「品種メダカ」など観賞用淡水魚の餌として欠かせないものです。
もちろん、各種配合餌料もありますが、やはり成魚の繁殖率や仔稚魚の生残率は圧倒的に生き餌であるミジンコを使ったほうが良い結果が得られます。
そこで、ミジンコの増やし方(繁殖方法)について、実際にミジンコ養殖を行っている筆者が詳しく解説します。
また、基礎知識としてミジンコの飼育に関すること、飼育水の作り方・適正水温・餌やり・水換えについてご紹介するとともに、生態的な特徴についても解説していきます。
ミジンコの体の作り
ミジンコは小さいながらもれっきとした甲殻類なので、さまざまな器官を備えています。
顕微鏡で観察しやすい体の器官には以下のようなものがあります。
第二触角・吻・複眼・鰓・心臓・腸・付属肢・卵巣・尾爪・肛門・尾毛・殻刺
なお、ミジンコの観察や撮影は通常の顕微鏡でも可能ですが、実態顕微鏡(生物顕微鏡)のほうが、より立体的に観察できます。
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ミジンコの種類
ミジンコは淡水域に生息する小型甲殻類の一種で、一般的に飼育される種類には以下のようなものがあります。
ミジンコ(Daphnia pulex)|ミジンコ科ミジンコ属
ミジンコ(Daphnia pulex)は、日本国内で一般的に見られる種類で、世界中に分布している普通種です。
鰓脚綱双殻目枝角亜目異脚下目ミジンコ科ミジンコ属に属しています。
春から秋にかけ、田んぼや周辺の水溜りで増殖しているのを見かけることも少なくありません。
オオミジンコ(Daphnia magna)|ミジンコ科ミジンコ属
オオミジンコ(Daphnia magna)は、本来はアメリカ大陸やユーラシア大陸に分布している「世界最大のミジンコ」ですが、現在は日本国内に帰化しています。
野外で見かけることは少なく、入手は専門店などから購入するのが一般的です。
ミジンコ(Daphnia pulex)よりも頑健で繁殖力も高いため、淡水魚の生き餌として養殖するのであれば、オオミジンコ(Daphnia magna)のほうが向いています。
ただし、マックスサイズが5mmとなり、成体はメダカの餌には大きすぎるので、成長途中のものを使用します。
タマミジンコ(Moina macrocopa)|ミジンコ科タマミジンコ属
タマミジンコはミジンコ(Daphnia pulex)よりも一回り小さな種類で、このためメダカ稚魚や金魚稚魚なども食べやすいため、餌料としての需要が高い種類です。
このほかに、広義のミジンコ(ミジンコと名のついた甲殻類)には以下のような種類が知られています。
カイミジンコ(Ostracoda)
カイミジンコ(Ostracoda)は正式には貝虫(カイムシ)と呼ばれ、節足動物門・甲殻亜門・貝虫綱に属す動物の総称です。貝形虫などとも呼ばれることもあります。
日本全国に分布しており、ミジンコ以上に見かけやすい生き物です。
飼育方法や繁殖方法もミジンコとほぼ同じで、繁殖力も強いため生き餌として養殖されますが、名前の通り固い殻を持つため、ミジンコに比べて消化が遅く、高級淡水魚の仔稚魚の初期餌料としては敬遠されます。
主に、成魚の普通食として使われます。
ケンミジンコ(Cyclops)
ケンミジンコはカイアシ亜綱(Copepoda)ケンミジンコ科キプロス属(Cyclops)に属する底生甲殻類です。
最大でも1mm強と大きさはメダカの生き餌に適していますが、底生のためすぐに底砂にまぎれてしまうので、使い勝手が良くなく、あまり養殖はされていません。
なお、ミジンコには非常に多くの種類があり、その形状もさまざまです。詳しくは、美しい画像とともにご紹介している下記の「ミジンコ全種類図鑑」をご参照ください。
▼ミジンコの種類と写真
ミジンコ全種類図鑑|見分け方がわかる顕微鏡写真つきで一覧紹介
ミジンコの実際の繁殖の様子
この写真は、実際に筆者のミジンコ養殖槽で増えているオオミジンコ(Daphnia magna)の様子です。
カイミジンコとケンミジンコは「勝手に増える」くらい飼育繁殖が簡単ですので、本記事ではオオミジンコ(Daphnia magna)とミジンコ(Daphnia pulex)の増やし方について解説していきます。
ミジンコのライフサイクルと2種類の繁殖方法
ミジンコは二種類の繁殖方法を持っており、一つは単為生殖(クローン)、もう一つが有精生殖(休眠卵)です。
どちらの繁殖方法をとるかは環境によって左右され、真夏の渇水期前と真冬の低温期前には耐久卵を作って厳しい環境を乗り越えます。
単為生殖(クローン)
ミジンコは、温かく(およそ水温20度以上)水量が安定している時期にはメス個体のみになり、単為生殖をして自らのクローンを次々と産んで増えていきます。
非常に効率良く増えるため、淡水魚餌料としてのミジンコ養殖は、単為生殖をする飼育環境で行っていきます。
ただし、単為生殖の再生産には限度があり、水温・水量が安定している飼育環境化でも、やがて繁殖は止まってしまいます。
ですので、定期的に有精生殖で新個体を作っていく必要があります。
有精生殖(休眠卵)
真夏の渇水期や秋になり水温が18℃を下回ってくると、単為生殖のミジンコのなかからオスが発生し、メス個体と有精生殖を行い休眠卵(耐久卵)を作ります。
耐久卵はエンドウ豆のような構造をしており、頑健な鞘のなかに二粒の耐久卵が入っています。
この耐久卵はそのままでは孵化しないので注意が必要で、次のいずれかの刺激(状態)で1ヶ月は放置した後に20℃以上の飼育水に入れると孵化を始めます。
①乾燥刺激:夏の渇水期の環境を再現し、完全に乾燥させた状態で放置します。
②低温刺激:冬の厳寒期の環境を再現し、水温5℃以下(冷蔵庫)で放置します。なお、凍らせてしまうと卵がだめになりますので、冷凍庫やチルドには入れないようにしてください。
ミジンコの飼育水の作り方
向かって右側がミジンコ飼育水のベースです。ミジンコは水質に敏感なため、水道水は数日間放置して塩素を抜きます。
少量であれば、国産のミネラルウォーター(軟水)も適しています。
また、魚の飼育水を流用することも可能ですが、過度に酸性寄りまたはアルカリ性寄りの水ではミジンコは飼えませんので、あらかじめPH測定をして「PH7前後」であることを確認しておいてください。
さらに、温度差が10℃以上もあるような水に入れると水温ショックでミジンコが死んでしまいますので、必ず元の水温に合わせて飼育水を準備します。
写真左側が餌水(グリーンウォーター)で、その作り方や混ぜる量は次の項目で解説します。
ミジンコの餌
この写真は、メダカの屋外飼育槽のもので、その水は太陽光によりグリーンウォーター(植物プランクトン・アオコがわいた水)です。
ミジンコの餌には、このグリーンウォーターを使用します。
グリーンウォーター以外にもエビオス錠・パン酵母・青汁などを餌に使う方法もありますが、管理が難しく飼育水を腐らせやすいため、特に初心者の方はグリーンウォーターを使うのが無難です。
グリーンウォーターは魚を飼わなくても、バケツなどに水を入れ、日向に放置しておけば簡単に作れます。
グリーンウォーターはそのまま使わず、必ず細目ネットで濾してから使います。
これは、魚の仔魚や水生昆虫の幼虫などミジンコ養殖の阻害要因を取り除くためです。
グリーンウォーターを濾し取ったら、先ほどの飼育水と混ぜていきます。
目安としては「透明度がなくならない程度」にすることが重要です。
グリーンウォーターの元になる植物プランクトンは、明るい時は水中の二酸化炭素を取り込んで光合成して酸素を放出しますが、暗い夜間は動物同様に酸素を呼吸・消費します。
あまり濃いと夜間に飼育水が酸欠になり、ミジンコが窒息してしまいますので、くれぐれもグリーンウォーターの入れすぎにはご注意ください。
餌水(グリーンウォーター)の育て方
ミジンコの餌となるグリーンウォーターですが、ミジンコの飼育数が増えてくると、それなりの量を毎日使う必要がでてきます。
容器に水を入れて直射日光に当てておけば、グリーンウォーターは作れますが、さらに効率的に濃くするためにはコツがあります。
それが、写真の液体肥料です。グリーンウォーターの正体は植物プランクトンなので、光合成だけでも増えてはいきますが、やはり肥料を与えると増えるスピードは格段にあがります。
液体肥料の目安としては、30リットル(バケツ2杯)に対して、およそキャップ1杯です。
その他のミジンコの餌
ミジンコの餌としてもっとも簡単で安価なのはグリーンウォーターですが、グリーンウォーターを作るための直射日光が当たる場所=屋上・庭・ベランダが確保できない場合は、乾燥クロレラを使うのが一般的です。
乾燥クロレラは冷凍庫で長期保存でき、必要分だけ少しずつミジンコ飼育水に入れることで簡単にミジンコの餌やりになります。
このほかにも、栄養強化の目的でドライイースト・エビオスなどを添加することもありますが、これらは水が傷みやすいため細心の注意と水質管理が必要です。
また、餌が切れた場合の一時的な方法として緑茶や青汁を薄めて使うこともあります。
ミジンコの飼育水温と水温調整
こちらは、実際に筆者が使っているミジンコ養殖槽で、三種類の方法で適正水温に加温しています。
ミジンコ養殖は単為生殖で行うのが効率的であることはすでに述べましたが、その適正水温は20〜28℃で、26℃がもっとも繁殖と成長が活発になる最適温度です。
夏場は真夏日にクーラーをかけておけば適正水温を保てますが、工夫が必要なのが冬場の加温です。
順に三種類の加温方法について解説します。
ウォーターバス形式
熱帯魚用のサーモヒーターで加温した水盆にミジンコの飼育容器を漬けて加温する方法です。
もっとも確実な方法ですが、ある程度広いスペースが必要になります。
サーモヒーター形式
ミジンコ飼育槽に直接サーモヒーターを設置するやり方です。確実に加温できて省スペースですが、ミジンコが苦手な水流が対流によって発生してしまいます。
水流に強いオオミジンコ向きの加温方法です。
マットヒーター形式
発泡スチロールなどにマットヒーターを設置し、そこにミジンコ飼育容器を置きます。
水温が安定しにくいデメリットがありますが、もっとも手軽かつ省スペースです。
ミジンコの酸欠防止
ミジンコの酸欠防止の基本は、酸素が溶け込みやすいように「広くて浅い容器」を使うことですが、水質安定のためにある程度の水量を確保するためには、かなりのスペースが必要となります。
ですので、普通の水槽やプラケースを用いるのが一般的で、酸欠防止にはエアレーションを使います。
ただし、ミジンコは水流に弱いため、写真のように「1秒に一粒ほどエアーが出る」ほどの極めて弱いエアレーションで酸素補給をしてください。
エアレーションのかわりに水草を入れる方法もありますが、光合成のできない夜間は水草も酸素を消費します。日中のうちにしっかりと光を当て、水草が十分な酸素を作っておけるようにすることがポイントです。
ミジンコの寿命について
ミジンコの仲間はライフサイクルがとても短く、その寿命は最大種のオオミジンコ(Daphnia magna)でも約4週間(約1ヶ月)、ミジンコ(Daphnia pulex)で約3週間です。
これらより小さな種類(タマミジンコなど)では、その寿命は20日足らずです。
ミジンコ飼育槽の水換え
ミジンコ飼育槽は定期的に水換えをする必要がありますが、それは以下の二つが理由です。
①水質の悪化を防ぐ
ミジンコは小さいとはいえ動物ですので、餌を食べると排泄します。また、ミジンコ飼育槽は濾過槽を設置できないため、その排泄物は熱帯魚水槽のように浄化できません。
このため、飼育密度にもよりますが週に一度は三分の一ほど水を捨て、新鮮な水を継ぎ足す必要があります。
②餌水の補給のため
ミジンコ飼育槽には餌としてグリーンウォーターを入れますが、どんどん入れていくと当然ですが水槽は満水になり溢れていきます。
ですので、①の水換えのタイミングで餌水を補給します。
ミジンコ飼育槽の水換えのコツ
ミジンコの水換えで気をつけないといけないのが、ミジンコを一緒に捨ててしまわないようにすることです。
写真のストッキングをかぶせた筒は、実際に筆者がミジンコの水換えに使っている自作の道具です。
このように、ストッキング筒をミジンコ飼育槽に沈め、エアホースでサイフォンをかけて古い水を捨てます。
こうすることで、ミジンコはストッキングの目をくぐれないため安全に水換えを行うことが可能です。
ミジンコの脱皮殻の掃除のコツ
ミジンコ飼育槽の水質を綺麗に保つことが、コンスタントにミジンコを増やしていくためには大切です。
ミジンコは成長とライフサイクルが早いため、放っておくと飼育槽の底にミジンコの脱皮殻や寿命を終えたミジンコの死骸が溜まっていきます。
これが、もっとも水質を悪化させる要因なのですが、一番手っ取り早いのがエアホースでサイフォンをかけて水ごと吸い取ってしまう方法です。
しかし、この方法だとどうしてもミジンコを吸ってしまい、吸われたミジンコはダメージを受けてしまいます。
そこで、筆者が使っているのが「ヌマエビ」です。ヌマエビは草食性なのでほとんどミジンコを食べることはなく、一生懸命に底にたまった汚れを食べて綺麗にしてくれます。
ぜひ、試してみてください。
※上の写真の左下に実際にミジンコ培養槽に入れているヌマエビが写っています。
ミジンコを長期累代飼育するコツと方法
ミジンコは「ある日いきなり全滅」します。これは避けては通れないことです。
ですから、筆者もこの写真のように必ず危険分散で小分けして飼育しています。水温もそれぞれ微妙にかえてあります。
それでも、単為生殖のクローン再生産には限界があるのか、いつまでも単為生殖で増え続けることはありません。
ミジンコはある日いきなり全滅する、と書きましたが、実は前兆があります。
何らかの要因で単為生殖が継続できなくなってくると、有精生殖をして耐久卵を持つ個体が増えてきます。これが前兆です。
そうなってきたら、飼育槽の底に耐久卵はたまってくるのでスポイトで回収し、ビンなどにまとめて冷凍庫で保管しておきます。
耐久卵は約1ヶ月も冷やせば低温刺激の条件を満たしますので、再びそれを温かい水に入れてあげれば、次世代のミジンコが孵化して再び単為生殖で爆発的に増えていきます。
低温刺激のかわりに乾燥させてもよいのですが、冷凍庫に入れておくだけの低温刺激のほうが簡単でおすすめです。
ミジンコの野外採集
ミジンコの入手方法としては野外採集もあります。もっとも一般的なのは5~8月の水田での採集で、目の細かいネットですくい取ることができます。
野外採集はコストがかからない反面、目的の種類が捕まらない、採集時に不必要な種類(カイミジンコやケンミジンコなど)が混じってしまって目的の種類が効率的に培養できないといったデメリットがあります。
また、ミジンコは肉眼で種の同定を行うのは困難なため、生物顕微鏡で調べる必要があります。
なお、ミジンコの種類を同定するのに便利なミジンコ種類図鑑(顕微鏡写真つき)は下記の記事をご参照ください。
ミジンコ全種類・画像図鑑|見分け方がわかる顕微鏡写真つきで分類ごとに一覧紹介
追加資料:ミジンコに関する研究機関の記載
最後に、ミジンコの生物学的な位置づけを信頼性のある研究機関(慶應義塾大学・自然科学研究教育センター)や東京薬科大学生命科学部およびWikipediaの記載からご紹介します。
ミジンコ類は、体は小さいが節足動物・甲殻類の仲間で、複雑な体制をしている(上図)。体が透明のため、複眼と単眼、触角、心臓、腸と肛門、葉状の付属肢などが光学顕微鏡で容易に観察される。通常は雌が単独で単性卵を作り、増殖する(単為生殖)。単性卵は雌の殻内で孵化するため、しばしば孵化した子を持ったミジンコが観察される。一方、水質などの環境条件が悪化した場合には、オスが出現し、オスとメスの交尾によって耐久卵(休眠卵)が作られることがある。耐久卵は体外に産み落とされ、環境条件が好転すると孵化する。
ミジンコは生息する湖沼の環境が良いときは、単為生殖という方法で卵(単為生殖卵といいます)を産み、子孫を増やしています。この単為生殖は子孫を増やす際に雄を必要としません。つまり卵と精子の受精は起こっていません。そのため非常に効率よく多くの子孫を増やすことができます。そして、この時の子孫は全て雌です。これを雌性単為生殖といいます。これは、魚などに捕食されるミジンコにとってはとても理にかなった子孫の増やし方といえます。しかし、ミジンコが増えすぎたり、餌がなくなったり、水温が下がったり、日が短くなったりとミジンコにとって生息する環境が悪くなるとミジンコは雄を産むようになり、雄と雌の間で耐久卵という受精卵を作ります。このミジンコの耐久卵は乾燥に強く長い年月が経っても環境が良くなれば、また発生が進み雌のミジンコになります。ミジンコはこのようにして環境の変化に応じて巧みな生殖方法とることで種を維持していく戦略をとっています。
ミジンコ(微塵子、水蚤)は、水中でプランクトンとして生活する、微小な甲殻類である。以下のようなものがミジンコと呼ばれている。1.鰓脚綱枝角亜目(ミジンコ目)のもの
1.そのうち、特にミジンコ科ミジンコ属の1種Daphnia pulex:ミジンコ
2.そのうち、特にミジンコ科ミジンコ属の1種Daphnia magna:オオミジンコ
2.貝形虫亜綱ミオドコーパ目あるいはカイミジンコ目のもの:カイミジンコ
3.カイアシ亜綱のもの:ケンミジンコ
引用:Wikipwdia「ミジンコ」より
また、こちらの動画は、茨城県霞ケ浦環境科学センターによって作成されたミジンコの観察動画です。あわせて、ご参照ください。